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2月にはいると職場では人事異動の話で持ちきりであった。断片的な情報をもとに各人が都合のいいように解釈するので話がどんどんわからなくなっていく。私の勤めている会社は国内にしろ海外にしろたいてい不毛な「現場」が多いのでいろいろと詮索してもあまり意味はないのだが、4月から始まるという新プロジェクトのこともあって皆いつも以上に情報収集しているようであった。
「おい、我妻、おまえインドネシア行きだってよ。良かったな。寒いところじゃなくて」
同僚の一人がそういった。私が異動するのではないかという話は早くから聞いていたのだが、かんじんの
「何処か」がわからず不安だった。インドネシアと聞いてどこかほっとした。学生時代から東南アジア近辺は旅行していたし、なによりアフリカやロシアなんて地域じゃなくて良かった。
4月からの新プロジェクトは特に東南アジア方面に力を入れるということらしいことは聞いていたので中心的なメンバーにでもなるのか?僕はどんな部署につくのだろう?同僚に詳しく聞いてみるとどうやら商品開発部のようである。
そういえば最近課長と商品開発部の技術者と飲み会に行った。課長は根回しがいい人間だからまず間違いないんじゃないか。
「本当ならば願ってもないことだ」
T大の量子機械工学科を卒業した私は当然携わることができるであろうと思った商品開発ではなく、まったく不本意にも営業の仕事をしている。商品のプレゼンや現場の調整などで身も心も疲れはてていた。開発部との会合では夜遅くまで開発現場の話を聞き、最後の飲み会では課長に何故自分は営業職なのかとかなり愚痴めいた話をした。開発部の人は心から同情してくれ、課長も
「いや、上層部の考えることはよくわからんもんでなあ。異動の希望は毎年出していたんだ。ホントだぞ」
と言い訳をしていた。もっともたいして結果も残していないのに異動できるなんてことはありえないことだとわかっていたので、毎年無理とわかっていても異動願いを出していただけのことではあったが。
そんなわけで、私にとってはうれしい情報だった。
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私が4年前から勤めているKMT社は大手建設機械メーカー、総合建設会社、ロボット開発企業、財閥系のグループ企業などが政府の諮問にしたがう形で共同出資して設立された汎用作業機械(多目的作業ロボット)会社だ。最近増えてきたどのロボット会社よりも巨大で、事業規模は世界一である。
本社は茨城にあり国内ではその技術をほぼ独占する形で企業グループを形成している。最近その弊害が指摘され、解体の方向に進んでいるような話もあるが政治的な方向づけの中から設立された経緯もあり、出資した企業は「世界経済における日本企業のあり方」といった理由づけでそれを回避している。国内だけではなく海外にも拠点を持ち、ロシア、東南アジア、アフリカ、オーストラリア、南アフリカなどに支社がある。
21世紀、日本は情報通信、金融、バイオ技術等の先進技術において市場獲得に失敗し、また、機械工業においては後進国におくれをとり、世界市場での地位が相対的に低下していった。
そのため政府はロボット産業を次世代産業の中核とし、国策でその技術を振興した。その結果前述のように大企業が多業種で共同出資してKMT社を設立、ロボット産業の新技術を確立するにいたる。それは従来の技術に加えて物理学(量子場メカニズムや原子力研究、素粒子構成等)や脳の機能解析、運動伝達、その他様々な諸科学を集大成したもので、量子工学機械システムと呼ばれるものであった。
ロボット産業は人工知能を搭載した高度なロボットを誕生させることを夢見てきたが様々な問題があり実現できなかった。
その中心的な問題は中央制御方法を機械として、システムとして組み立てることの困難であり、人型ロボット(人工知能を持ち、その制御において活動し、人間が行う作業能力を「総合的」に、相対的にでもいいかもしれないが持ち合わせる、汎用作業機械としてのロボット)の可能性は21世紀中には困難ではないかという見方が広がっていた(研究者によってはそのような物自体人間が作る意味はないし、その必要もないと強弁した)。
しかし量子工学ロボットは人間の脳を直接中央制御装置とし、脳の中の運動に関する量子分析情報を各駆動系の制御装置に伝達し、それによって全体の運動性を発揮する技術であった。
従来からの機械工学のロボットは特定の機能を持ち、様々な分野ではあるが、特定の分野で活躍したが、人々の求めている(夢見ている)モノとはかけ離れていた。それは「まだ将来がある」という言葉とともに研究され続けるのみであった。しかしその「夢」は違った技術で実現したのである。もっともそのロボットというのも開発事業で使用される建設機械の一つであって厳密な意味で(その厳密さもよく意味がわからないが)の汎用ロボットではなかったわけだが。
政府は国内の再々開発事業の多くにこれを投入、公共事業にも採用し、また、ODA、民間開発事業にも使用され、国内外で注目を集めた。そのおおもとになった会社がKMT社であった。