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「おい、我妻、今日飲みにいこうか?」


課長からの誘いだ。さっき話は聞いたので何の話かはわかっていたが、とぼけたふりをする。

「はあ、今日は五味島建設の戸田さんと打ち合わせになっているんですが」


「戸田さんにはもう連絡してある。打ち合わせは中野にいってもらうよ」


「わかりました。今日は開発部の人はいないんですか?」


「いや、二人だけだ。まあ、聞いたかもしれんが、君の異動の事でな」


「異動?ですか」


「ああ、明日から仕事の引継ぎを始めてくれ。人は来るはずだ。ほかにもいろいろと話すことがある。とりあえず行こう」
「はい」


 業務もそこそこに居酒屋に行った。早い時間で、週半ばでもあり客は僕たち二人だけ。あまり盛り上がらない雰囲気(盛り上がる必要はまったくなかったが)の中で乾杯をする・・・。

「とりあえず乾杯だ。おめでとう」


「は、ありがとうございます」

課長は中ジョッキの生ビールを一気に飲み干し、目の前の料理を食べ始めた。話を始めるのかと思ったが食べてばかりいる。僕はそわそわしながらビールを2,3口飲んでいたが、我慢しきれなくなり聞いた。

「課長、えーと、話というのは・・・・・・。私の異動の件だそうですが」


「ああ、すまん腹がへっていたものでな。ちょっと待て。これを食べてから話す」


「4日前の会議で4月から始まる新プロジェクトの極秘会議と人選が発表された。私たちもやっとかと思って参加したんだが、おまえはインドネシア行きだ。インドネシア支社の立ち上げに作業主任として参加する。正確に言うと4月からシンガポール支社に行って準備、その後インドネシア支社建設だ」


「シンガポール、インドネシア、作業主任、ですか?」


「支社と工場建設まではな。その後は開発部のほうに回るらしい。営業はもうないよ。よかったなあ」


「は、ありがとうございます」

話がはっきりしないのはどうも気がかりだが、一応開発のほうに回るらしい。営業はないということだけはっきりしたわけだからそのことがわかっただけでも良かった。しかしはっきりしないことが多い。「新プロジェクト」とは何なのか聞いたが、プロジェクトの中心である新しいロボットの開発が大幅に遅れているので詳細はまだあきらかにしないということであった。


「マスコミ発表までおあずけらしいんで、しょうがないな。ただ、インドネシア支社は最新鋭の生産工場や飛行場、港、何でもかんでも作るらしい。それも短期間で」


「ものすごい大規模な工事ですね。空港や港を作るというのは良くわからないなあ・・・」
「何にしても話はあとだそうだからな。大変なのはかわりない。頑張れや。開発部のほうにいくことになるみたいなんだから」


「もう、営業はしなくていいと・・・・・・」


「よっぽど嫌みたいだったようだな。まあ、見ていてわかったが。よく4年間耐え忍んでくれた」


「いえ、課長の下だからやれました。感謝しています」


「これからは夢を持って仕事ができるかな?」


「はい!!」


「そうか・・・・・・。夢か。おまえにとっての夢とは何だ?」
 酒がすすんできたせいか、突然「夢」といわれても。しかし、開発に入って新しいロボットを作るのが、僕の夢だった。

「人に役立つロボットを作ること、ですか。量子工学ロボットの理論はかなりインパクトがありましたから。ロボット作るんならこれだと思いましたね」


「俺の子供のころのロボットのイメージはアニメのネコ型ロボットとかアンドロイドとか、人工知能をもったロボットが圧倒的だった。いつかは人間と同じように話して、人間を超える。モラヴィックなんかの大胆な予想を見たりしていた。人類は滅ぶのかなんて議論が盛んにされていたなあ。今のような機械がロボットというには、イメージからすると全然違っていた。けれどもロボットなんてそんなもんだったんだろうが」


「夢か。昔のほうがまだ良かったかもしれないな。夢と現実の割合がどちらが大きかったかって言うと夢の部分が大きかったし、ロボット産業は夢の延長で作られていた。もっとも今も夢の延長といえば延長だけど、なんというか、現実から話が進んでいる」


「現実に汎用ロボットが社会の中に浸透している証拠じゃないですか」


「現実ねえ。人の幸せは夢想の中にこそあるんじゃないか?人に役立つ、なんて言葉は所詮はエゴイズムにすぎん」

人生論をいわれてもよくわからない。私は話題を変えようとした。

「・・・・・・。課長、私のほかに異動する人はいるんですか?」


「異動か、今課にいるやつは各国に散らばっていくようだな。課全体がほとんど総入れ替えだ。管理職は違うけどな」


「じゃあ課長は又新入社員の教育から始める事になるんですか?大変ですね」


「俺か、俺は会社辞める。上は教育係で残したかったらしいが、プロジェクトの話があった時点で辞表を出した」


「え!?」


そうか、どうりで妙な話をすると思った。今年で45歳になる課長は会社では特異な存在ではあった。会社設立当時からのメンバーで課長止まりの人はこの人くらいで他は出世しているかやめている。いろいろと大変なんだろう・・・・・・。

「俺がこの会社に入ったのは何がしかの夢があったからだ。俺は技術者じゃないが、日本は技術者が支えてきたと今でも思っている。俺たちが若いころは日本という国も若いやつらも年よりも皆全然だめでくだらない連中ばかりだった。自分のことばかり考えている人間ばかりだった。この会社はいろいろと背後はあったんだろうが、少なくとも設立当初は技術者たちのものすごい野心的な挑戦があったんだ・・・・・・。しかし、早いもんだ、もうその先が見えるなんて。我妻、会社はもう変わっていくだろうよ。いや、本来の姿に戻っていくのか。所詮はいわくつきのシロモノだ」


「・・・・・・。最近やたらと軍用のシステムが研究されているのはありますけど・・・。でも日本は軍事転用を禁止したロボット法もあるし。それに、仮に兵器の可能性があるとしても、技術的な面でのレポートでは『2足歩行兵器は2乗3乗則の問題があり現実的ではない』という結果がでていますよ。それらはクリアーされていないから問題はないと思うのですが・・・」

「最近のQMの研究成果を見るがいいさ。しかも最近はは機動性を重視した中型機種ばかりが研究されている。技術的な問題はすぐにクリアーできるよ」

新しいプロジェクトとはなんか恐ろしいことでも計画しているんだろうか・・・。

「・・・・・・・課長はどうされるおつもりなんですか?」


「前々からHMS社から来ないかと何度か誘われていてな。別に移る必要もないから断ってきたんだが、そっちに行くことにした。あっちには友人も多いし。もちろん今の会社に迷惑をかけるようなことはせんよ」

HMS社とはKMT社の後にできたロボット会社だ。KMTの人間が独立する形で、エンターテインメントや家庭用ロボットを生産している。

「課長、会社の新プロジェクトは何かあぶないものなんですか?」


「いや、ただ先のことは見えるんじゃないか?最近徴兵制の議論は現実味を帯びているし。PKOでロボットを使うことが国会でも議論されている。あとは技術的な問題だよ。法律ほどあてにならんもんはない。あまりいってはいかんが、出世させるつもりで上島部長は俺を外務省の高官との接待に参加させたが、外交でも相当もめてるらしい。アジアの戦略の大転換があるという話もしていた。まあ官僚は腹黒いから情報戦をやっているんだろうが。

明らかに今度の経営計画はアジアに資源投下しすぎている。先進国にきちんとした拠点がないのも変な話だ。だいたいインドネシアに最新鋭の工場を作るのも、よくわからん話だ、工場作るなら中国なんかの方がよっぽどいいはずだ」


「そうですねえ、何ともいえないなあ。バランスの問題なんでしょうが・・・・・・。でもインドネシアに戦略上の意味みたいなものがあるんですかね」


「日本の外交戦略なんて、太平洋戦争後何にも変わっちゃいないよ。どうせ内輪の話だろう」


「まあ、これ以上はやめるか。おまえもあっちにいったらがんばってくれや。俺もがんばるよ」


「はい。ありがとうございます。課長もがんばってください」

 どうも何もかも中途半端な感じはするが、ある程度はわかった。営業はなしだ!
それがわかればいい!!

「そうそう、来週からお前は特別研修だ。1週間講義で2週間の実地研修。汎技研と演習場。おまえ新人研修のとき散々だったらしいな。又しぼられると思うよ」


「え、演習場いくんですか?」


情報が漏れないようにするためには山奥が一番だ、という理由かどうかは知らないが、まあそういうことだ。今年入社した社員と一緒に幹部候補も建設作業するらしいぞ。がんばって来い」


「おーい。お姉さん、ビール追加。それとやきもの頼むよ」

 

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