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私は高田氏と別れて家にかえるとすぐにもらった資料を見てみた。1つのファイル以外は全てプロテクトがかかっていて読むことはできず、「戦略会議」というファイルのみ見ることができた。確かに表題は「国家戦略秘密会議議事録」とある。日付は2017、1、7。高田氏はQ−PROJECTが発足して5年後と言っていたが、2年後であった。2年後であるということはQ−PROが発足して程なくA・A計画についての検討がなされていたということである。場所や出席委員などの情報は一切ない。会議自体が秘密会であるわけだから場所や当事者が誰であるかなどということは記載しないのは当然であるのかもしれない。

 会議の冒頭では米国の対アジアプレゼンス低下の俯瞰、特に21世紀に入ってからの中東シフトによってアジアにおいても安全保障分野での空白が生じてきたことが、再び確認され(これは繰り返し安全保障の分野で確認されてきたことであった)、同時にアジア独自の安全保障案に関する認識が検討されていた。アジアは国家間の交流にしても経済交流にしても独自の地域的結びつきを強めつつあるが、米国のプレゼンスの低下は安全保障分野での決定的な混乱を招いてきたということ、そして、米国主導の安全保障システムによっても、混乱が生じてきたこと、更にアジア各国が行おうとしているASEAN構想にも根本的な欠陥があるということが指摘されている。今までの安全保障分野での欠陥を全部あげつらっているようにも見えるが、従来どおりの視点に加えて、ASEAN地域フォーラムや日米安全保障体制に対して批判的なスタンスが目立つというくらいであった。従来ならばこのような議論から日米安全保障条約と米国の戦略に日本としてどのように従うかということが議論されるはずだがそれはなかった。

続いて、議事録は日本の安全保障政策の基本的視点を議論している。これらも従来の視点となんら変わることはないように見える。が、会議の中で何度も繰り返されていることは米国の対アジアプレゼンスの低下であった。

そして、いよいよA・A計画に関する検討が議論され始める。それは突然始まった。委員の一人が

「我々は1世紀の間議論と交渉ごとにばかり時間を費やし、その有限な環境の中で実質的な展開側面を模索していくしかなかった。外交戦略には論理性がなく、外交交渉は結果的に非効率でつじつま合わせでしかない。防衛政策にいたっては毎年何兆円もの国家予算をつぎ込むことの意味が殆ど理解しがたいほどに支離滅裂である。人類の究極の兵器は核兵器であるということから、不拡散と抑止力という机上の概念と日米安保という摩訶不思議な環境そのものを外交政策の根本としてきたことはわが国の国益を現時点において著しくをいびつなものにしている」と発言。その後に

「抑止論と日米安保という二つの形而上学的な論理をどのように克服するかという点についての外交、軍事上の具体策が模索されなければならない、その具現化を、A・A計画の展開に求めることは非常に重要であると考える」

この短い発言のみであった。

その後会議は核抑止と日米安保に関する議論が続き、会議自体は終了していた。

私は安全保障分野に関する知識など全く持ち合わせていないのでさっぱりわからない。抑止論と日米安保とA・A計画はどのように結びつければよいのか。強いて言えば、もしもA・A計画が軍事的な拠点作りを意図したものであるとすれば、日本は要するに兵器を製造しているわけだから全く独自の軍事的な戦略が構築できるという点であろうと思う。しかしその具体像のようなものは一切なかった。

会議は、おそらく、その後の進展でA・A計画の軍事的な側面を検討しているのであろう。

「こんな資料で週刊誌が動くのか?」

一定過激な内容を含みはするものの、私は結局高田氏がいろいろと話し、会社の反主流派の活動にに参加してくれと促す意味を全く理解できなかった。

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高田氏と会ってから2日たったが、同僚から週刊誌が送られてくることはない。テレビも見ていたが、高田氏が週刊誌にリークしたという情報の報道は一切なかった。私は我慢できなくなり高田氏と同僚に連絡を取った。高田氏は例によって不通、同僚とは連絡がついた。

「おい、週刊誌送ると言っただろう?どうなった?俺は毎日テレビも見ているが報道などは一切ないぞ?」

「おお、我妻か。どうも週刊誌の件は、載らなかったようだな。よくはわからん。情報を手に入れるだけでもかなりしんどかったから、その後は全くこちらもわからずじまいさ。もうこんなやばいことはできんよ」

「そうか、やっぱり不掲載だったんだな」

「何か情報が手に入ったのか?」

「いや、ただ、話が漠然としているから週刊誌に載るなんてことはないだろうと思っていたよ」

「もう、よくはわからんが、その話はタブーみたいだぞ。反主流派は完全に活動が行き詰っているみたいで派手な動きは止めたみたいだ。反主流派からすれば週刊誌掲載を皮切りに会社批判を始めようと思っていたんじゃないのか?それができなくなったわけだから動きも取れまい」

「反主流派ってのはなんなんだよ?お前は総務だから知っているだろ?教えてくれよ」

「反主流派のことも知らないのか?全くお前はおめでたいよ。副社長が筆頭だ。KMTははじめ公社だったから会社の勢力図はそのときからの構成のままだ。トップが主流派で副社長は反主流派なのさ。公社化当時は政治的な思惑が強かったから与野党はそれぞれの代表をKMTに送り込んできたから、主流派は与党的な人間、反主流派は野党的な人間が多い。野党の人間はQMが兵器になることを嫌っているからA・A計画についても当初から反対していたんだ。もっともA・Aが軍事的な計画を含んでいるというのは噂の域をでないし、どうかしたら反主流派のデマかも知れん。それに反主流派は憲法の改正にも賛成だし、QMがPKOで使用されることにも反対はしていない。よくわからんよ」

高田氏は、QMがPKFで使用されることに対しても反対であるといっていたが・・・。兵器になることを嫌っているとはどういうことなのだろうか。高田氏は反主流派の中でも独自の視点を持っているのか。。

「しかし、最近反主流派の地下水脈は何かということでちょっと面白い噂があるんだ。これは、A・A計画で副社長がアメリカ支社を建設することを強硬に主張したことから端を発しているんだけどな」

アメリカのQMに対する批判は最近特に激しくなっている。QMの理論が発表された時アメリカは世界経済の発展は日本の再建にかかっており、QMがその起爆剤になるだろうとかなり評価していた。しかしその後の理論的発展によりQMが従来不可能であった2足歩行兵器の実現を可能にするかもしれないという漠然とした議論がなされるようになり、巨大な軍産複合体であるアメリカ経済の土台を揺るがすものであるという認識が芽生え始めたからかもしれない。またアメリカが、いや、世界が推し進めてきた軍事戦略、技術上の表層部分を根底から覆しかねないものであった。しかもQMを擁した日本がアジア偏重ともとれる戦略をとり、それにロシアや中国が一定の理解を示すことによる軍事的外交的な意味は計り知れないものがあった。日本は共産国である中国に対してはかなりの距離を置いたが、世界的な支援にも関わらず一向に上向かないロシアへのファンダメンタルな関与、日本外交上の一大問題である北方四島返還の切り札としてQMを投入していった。このことは日本が、明らかにアジア=ユーラシア大陸における独自のプレゼンスを行うことに他ならなかった。そのような経緯もありA・A計画においては、アメリカとヨーロッパにおけるQMの投入は見送られていたが、副社長以下のプロジェクトチームが独自に計画を立案し、アメリカ、ヨーロッパ支社建設がA・A計画に加えられたのである。

「反主流派、それが全体かどうかはわからないけどな、少なくとも副社長以下の何人かは実はアメリカとつながっているんじゃないのかということさ」

「アメリカとつながっている?」

「そうだ、もともと副社長は野党第一党の派閥の人間で、与党が、あの、強硬な政治家の下で内閣を作った時アメリカにアピールしたという話は有名だろう?『彼は純粋な国粋主義者であって日米や世界の軍事外交戦略を破壊しようとしている』という、あれさ。共和党の人間は聞く耳を持たなかったらしいが、民主党の方はそれをかなりの部分真に受けて研究を始めたらしいんだ。それがもとで今のようなアメリカのQM憎しが始まったわけだが、それ以来野党はなにかとアメリカに接近しようという動きがあるらしくて、QMの今の現状から考えてアメリカの方も野党に対してつばをつけ始めたという噂だ。事実副社長はアメリカ支社に自分の子飼いの人間を送り込んでいるだろう?」

「知らないよ。そんなことは」

「あ、そうか、とにかく今いろいろなことがささやかれているからな。お前もせいぜい気をつけることだな」

そんな深い話があることなど私にわかるわけがない。

「もっと情報をくれよ」

「いやなこった。もうこれ以上ヤバイ話はできんよ」

そう言って同僚は電話を切った。私は話を聞いた後、急に眠くなり横になった。

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高田氏から連絡が入ったのはその日の夕方であった。私は電話の後ずっと眠っていて、長いこと気づかなかったのだがテレビ電話の大きな音が聞こえてやっと目を覚ました。高田氏はインドネシアであった時よりも汚い格好であったが表情は明るく落ち着いていた。しかし周りは汚らしい壁に囲まれた2畳ほどの部屋であった。新世紀の人間が経営しているネットカフェの一室なのだそうだ。自分は寄宿舎のケーブルに侵入する方法などわからなかったが新世紀の人間が全てやってくれたという。高田氏は新世紀との関係は言っていた通りかなり深いようだ。しかしKMTの人間にマークされているのに寄宿舎のテレビ電話にかけてくるなどちょっと不用心がすぎるのではないだろうか。

「高田さん、携帯電話のほうにかけてきてくれたらよかったのに。寄宿舎のテレビ電話では盗聴されたりするんではないですか?」

私は自分自身にふりかかるであろう災難に対する覚悟などできていなかったので正直恐ろしかった。

「心配するな。実は副社長にお前のことを話したら通信に関しては便宜を図ろうといわれてな。寄宿舎のテレビ電話はKMTが管理しているか便宜を図ってもらうようになればらこちらのほうが安全だ。正直テレビ電話が一番ホッとするものでな。これからも連絡はテレビ電話を使うのでよろしく」

「副社長に話したんですか!なんで・・・」

「あまり深く考えるな。通信手段だけでも確保しておきたかったんだ。携帯電話などは筒抜けなんだよ。俺は難題携帯電話を換えたか知れない。鐘があるわけじゃないから通信手段で金をかけるのはつらいからな。それに俺自身いろいろなところからマークされていることは間違いない。まだお前が反主流派の人間になったといったわけではないから心配するな」

勝手なことを・・・。

「で、どうなんだ、渡したCDは見てくれたか?」

「見ました」

私は憮然として答えたが高田氏は事務的に話を進める。

「どう思った?」

「どうもこうもないですよ。あれだけではどう評価していいのかわかりません」

「そんなはずはないと思うが。A・Aの軍事戦略の骨子だぞ、あれは」

こちらこそ内容の貧弱さに少し腹をたてていたくらいなのに。何処にも軍事戦略のことなど書いていないではないか。

「見ることができたのは委員の発言の数行だけでしたよ。あれで骨子というのはどうかと思いますが」

「どういうことだ?」

「他は全てプロテクトがかかっていて読めませんでしたよ」

「なに?あ、そっか、ごめんごめん、国家戦略会議議事録以外は止めていたんだ。忘れていた」

「そうでしょう。あれだけではわかりませんよ」

「すまん、他のファイルのパスワードを教えるからメモしてくれ」

20程あるファイルのうち半分のパスワードを教えてもらい、高田氏は早いうちに必ず電話するからファイルを見ておいてくれといいテレビ電話を切った。私は週刊誌のことを聞いたが、

「よくわからないが不掲載になった。かなり重要な国家機密なのだから圧力がかかったのだろう。よくあることだから仕方がない。まだ調べなければならないことはある。自分もあせりすぎたのかもしれない」

と答えただけであった。次に連絡する時は、反主流派の活動に参加してくれるかどうかの返事も聞くとも言った。ファイルを見てみるしかない。もっとも見ても私は反主流派の活動になど参加することはないだろうと思っていたが。

パソコンを起動してファイルのパスワードを入力してみた。すると、

「・・・なんだ?開かないぞ」

どのファイルもパスワードを入力しても開くことができない。私はムキになって1つのパスワードを全てのファイルに入力することを繰り返してみたが、ダメであった。期間が過ぎるとパスワードが使用できなくなるのかもしれなかったが、それならば高田氏のファイルも使用できなくなるはずであろう。高田氏がパスワードをどのようにか間違えたのかもしれない。高田氏が教えてくれた連絡先に電話をするとまったく違う人がでた。恐らく電話を換えているに違いないが、それにしても少し腹ただしい。なにか、上手くいかない。

その後も高田氏からの連絡はなかった。

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