「まず襲撃事件の首謀者ですがこれは複数の組織が関与しています。お聞きしたと思いますが、まず生存の思想インドネシア支部所属のガルーダ、これは環境保護活動を目的にしていますがインドネシア政府、アメリカ中央情報局の支援を受けている組織です。代表はブンガラン・ハムディとなっています。活動の目的はインドネシア政府及びCIAの意向を受けての反政府勢力の監視、情報収集活動、以前はスマトラのジャワ特別区に拠点を持っていましたが、2年前からジャカルタのNGO組織に食い込み現在の活動を始めています。次は同じ生存の思想インドネシア支部所属のアズラエル、彼らは民族派に属する組織で、これもインドネシア政府の一部から支援を受けています。彼らはQM武装勢力でQMの強奪事件にも関与しているのではないかと思われます。そして日本側ですが、生存の思想日本支部所属新世紀、代表は今のところつかめていません。主な活動はありませんでしたが、A・A計画が進むにつれてKMTに脅迫、示威活動を行っています。大阪第222区画担当ロボッター組織に事務所があるのではないかとの疑いがもたれています。当地のロボッター代表を現在尋問しております。その他に宗教法人生存の家、これは知っている方もおられると思いますが、、生存の思想の土台となっている組織ですが、これも関与しているのではないかと思われます。主にこの4つの組織が貨物船襲撃を行ったことがわかっています。日本の組織は不起訴となる可能性も高く捜査の推移をもう少し見ておかなければなりませんし、インドネシア側は、政治的な判断により捜査を行うことが難しくなっています」
鈴木氏はそう言うと「今までで何か質問はありますか」と言った。CIAの存在など全く関係なかったからいきなりそんなことを言われてもどう解釈していいやらわからないではないか。皆同じような雰囲気でどう質問してよいのやらわからないようだった。しかし、工場長が手を上げた。彼は50歳でいうまでもなくKMTの当初からのメンバーであった。
「生存の思想がKMTに示威活動をしてきたことは知っていますが、CIAというのは私は始めて聞きました。インドネシア政府も何かしらの形で関与しているようですが、目的はなんですか?」
「それに、会社側は何故事実を社員に明かそうとしないで、外務省の人間に話をさせるのか理解できません」
「後のお話もきちんとお話しますが、まず襲撃事件の目的から。単純に示威活動が過激化した、ともいえます。彼らが言うKMTの軍事計画などと言うものは全くのデマでありますから、もしかしたら勢力拡大のキャンペーン的な意味もあるのではないかとも考えられます」
「実際なぜ生存の思想がいつもKMT批判を繰り返しているのかわからない」と、工場長は言った。鈴木氏は一言「正義の月闘争の影響でしょう」と言うと工場長はムッとした顔になった。
「今回皆さんにお話しようと思ったのは、CIAとインドネシア政府の問題です。何日かかけて私はインドネシア政府とこの件に関して話をしてきました。アズラエルに関してはインドネシア側が非公式に組織の解体を行うとのことです。インドネシアはスハルト失脚後から大インドネシアを維持していくのがもはや困難になっています。現在の政府は吸引力がなく、そのためIMF、アメリカの指導力にかなりの程度依存して政権運営や経済政策を遂行してきました。さらに国内権力維持自体も水面下でのアメリカ依存が激しくなり、その結果がインドネシア政府とCIAとの密接な関係につながったわけです。もっともインドネシアはスハルト政権時代から共産主義、民族主義、原理主義弾圧のためにアメリカと密接な関係にあったわけですが」
「私たちは何十年も前からこれにに対して日本独自の戦略を密かに進めてきました。まずはエネルギーに関して、次は我々の経済構造の変化によって、更には断続的にODAの比重を高めていくことによって。そしてわが国がQMの開発を終了すると同時に人、金、物を戦略的にインドネシアに投入し、QMをインドネシアで制度も含めて導入しこれによりインドネシア政府の我々に対する影響は徐々にアメリカを上回っています。アメリカ政府はこれにかなりの警戒感を示していて様々な非公式のやり方で対抗しようとしています。ですから子飼いの組織を使ってロボッター制度自体を否定しようとしているわけです。現政府はその狭間にあって勢力争いが繰り広げられています。」
「ですから貨物船襲撃事件の真相というのはインドネシアのアメリカ側の勢力がQM制度を拒否しようとして起こしたものであるといえます。しかし日本側、新世紀がなぜ貨物船襲撃事件に関与したのかということについては話したようによくわかっていません」
「貨物船襲撃事件は日本側の主導で実行されたと言う話を聞きましたが」
私はハムディとの話を思い出しながら聞いていた。彼の話し振りだと事件は日本の組織が、インドネシアに、彼の話によると「汚らしい理想主義」を持ち込もうとしているためにおこしたのだということだった。諸川はそれに対してアメリカの話をした。諸川は何かの意思を持っているようにも思えた。それが何なのか。
「そのような話は聞いていませんが、どこからその話を?」
鈴木氏は、私のほうを向いて、少し身を乗り出した。彼の癖なのだろうか、下あごをまた何度かさわっている。
「私は、ハムディという人物にあって何度か話をしたことがあるのです。彼は日本の生存の思想の人間が、汚らしい理想主義を持ち込もうとしていると話しました。そして私たちはその純粋さに従うと」
「ほお、それは興味深い話ですね。そのように言ったのですか?」
「はい、直接ではありませんが、そのようなニュアンスのことを言いました」
鈴木氏は手元の資料に目を通し始めた。
「日本側の調査がまだ十分でないためわかりませんが……。汚らしい理想主義というのは、おそらくアメリカ側から見た生存の思想の評価であろうと思います。彼らの思想は従来の宗教的位置や環境保護団体の範疇を超えたところにあって、純粋な反グローバリズムを縮小しつつあった市民運動の中に持ち込んで明確な組織的アプローチを確立した点にあります。アメリカの環境保護団体をもっとも批判したのが彼らであると事考えるとそのように評価するのも当然かもしれません。しかし、なにか引っかかることもないとはいえません」
再び資料に目を通し始めた鈴木氏は一時何度も資料をめくっていた。
「アメリカが何故日本に敵対しているのか?アメリカにとって日本はもっとも信頼している同盟国なのではないか?」
間が空いたことに他の人間は我慢できなかったようで質問が出た。何度も資料を読み返していた鈴木氏は、もはや私のことに時間を取られてはいけないと思ったのか、資料を見ることをやめて話し始めた。
「アメリカにとって日本は同盟国なのは間違いありません。ただ、日本とインドネシアのことに関してはそうでもない。さらに、アメリカが日本を真に同盟国と考えているかと言うとそうでもない。しかも現在の政権は民主党ですから特に日本に対しての特別な感情はありません。インドネシアに関しては、言いましたが私たちは40年近くの間で独自の見解を持ってきました。それは外務省の暗黙の長期展望として存在していました。それがアメリカの戦略に根本的に対立するものであったため私たちは何度か敗北を喫してきたのですが、この10年間の間での外交戦略の地道な積み重ねのおかげでやっと実を結ぼうとしているのです。アメリカ側はその事実を認めようとしないだけです。これは現在の私たちの国策とも非常に重要な関係があります」
「その、国策とはなんですか?」
「表面上はエネルギー問題です。そしてより深い問題としては彼ら、アメリカ側に対する、私たち官僚の、国益に関する苛立ちがあります。その点を皆さんに今日はお話しようと思っているのです」