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「おいおっさん。遊びにこんか?」

硲から電話があったのは研修が終わった次の日だった。

私は研修の疲れをとりたいのと出発の準備をしなくてはいけないので断わろうと思ったのだが硲は「親父に合わせたい」と言うので、部下の親父になら会っておいたほうがいいのだろうと承知した。

住所がいつも通っているQMWAのすぐ近くであったので何か組合に関係している人なのかと思ったが、

自宅に行き硲の親父さんをみたら組合の理事の硲硬衛氏であった。

「どうも今日はお忙しいところすいません」

「いえ、こちらこそお久しぶりです。いつもお世話になっていまして。いや、全く気づきませんでしたよ。硲さんの息子さんだったとは。よく考えたら組合で働いている人といえば硲さんしかいなかったですねえ。立派なご子息で・・・」

硲氏には入社以来かなり世話になっていた。

私はなかなか営業が上手くいかず、またQMWAの人間は前も書いたがけっこう荒っぽい人間が多くてこまっていた。

それを見かねた課長が硲氏を紹介してくれ、それ以来何かと世話になっていたのだ。

もっとも硲氏の新人に対する面倒見のよさは有名で入ってきた新人は「硲人脈」で営業のノウハウを勉強させてもらった人も多い。

「いや、修平から上司が我妻君だと聞いて是非会わないといけないなあと思って。今日は昇進祝いもかねてちょっとお話できたらなあと。まあ部屋の方に入ってください」

「すいません。失礼します。・・・今日は修平君は?」

「ああ、あれは遊びまわっていますよ。今日の席にはいらんでしょう」

「ははは、じゃあ失礼いたします」

リビングにはちょっとした料理が並んでいた。

硲氏の奥さんは数年前になくなっているということで、自分でいろいろと用意されていたようだ。私は申し訳ないやらで、恐縮しっぱなしであった。

「しかし、高田君から君を紹介してもらったときにはなんだか線が細い人だなあとは思っていたけど、その人がインドネシアにいくことになろうとはなあ。我妻君の異動の話は聞いていたのだけれど、思いっきり新プロジェクト関連になるとはおもわなんだよ」

「いえ、私も半分高田さんにだまされたようなもんで・・・」

「へえ、高田君にはなんと言われた?」

「いえ、課長は開発部にいけると言っていたんですが・・・」

「ははは、あいつは昔からいうことが適当だからな」

「そうですね。課長は昔から・・・。でも今度HMS社のほうに行かれるそうで。なんだかさびしい限りです」

「え?HMS社・・・ふーんそうか。又適当なことを・・・」

「違うんですか?」

「いや、今日呼んだのはそのことも関係あるんだけどね。やつはちょっとモグるらしくてね。新プロジェクトの件で」

「え?もぐる、どこにですか?どうして?」

「まだはっきりしたことはつかんでいないんだが、今度のプロジェクトはかなり裏があるそうなんだ。それでやつはちょっと情報収集をしたいと言っていたんだ」

「課長は居酒屋で少し話されていましたが、どんな裏が?」

「よくはわからんが、政府がらみであるらしいんだ。情報がつかみにくくてな。いまいろいろな人から情報を収集しているところだ。しかし協力してくれる人間が少ないので自分で動いて集める必要があるみたいだ。高田君なんかと協力して少し深く探ってみる」

「そんなにヤバイ話なんですか?」

「うーん、まったくわかっていないんだけどね。いろいろ危ない橋を渡らないといけないかもな」

「そうなんですか・・・。でも危険でしょう?そこらへんの話に突っ込むと」

「危険なことはもう慣れているよ。『正義の月闘争』のときなんかは両方からいつも狙われていたからな」

「あれはすごかったからですねえ。硲さんはそのときから・・・」

「闘争の中心だったからな。今度もいろいろかぎまわっているのがそろそろばれているかもしれん。私に何かあったら修平をよろしくお願いしようと思ってね。そこらへんもお願いしようと思ったんだよ」

「そんな・・・。硲さんあまり危険なことはなされない方がいいですよ」

「去っていった者への業みたいなものさ」

「・・・・・・・」

「正義の月闘争」について少し話しておこう。

何回も書いたが量子工学ロボットは建設機械として開発をされ、公共事業に投入されたのだが、その際KMT社(当時は政府の支援を受けた公社のようなものだった)はそれをゼネコンや地方の建設業者、また多くの「ロボッター」といわれる個人開業者に無利子融資したお金で買い取らせ、KMT社と契約請負を結ぶ形で事業を展開したが、最終的には中心的な役割を大手ゼネコンに与え、中堅ゼネコンを含む他の事業者を吸収合併させようとした。

これに地方の事業者やロボッターたちが大反対し、QWMAの設立を主張、

急進派がゼネコンやKMT社にたいし量子工学ロボットを使って示威行動を起こした。これらに様々な要因を含んだ勢力が介入して反政府運動騒ぎを起こした。

この運動によってQWMAは設立され、ゼネコンの下請けを含むすべての現業員がQWMAに登録し、発注もとと独立した形で契約を結ぶ現在のような形になったのである。

これによってKMT、発注もと、QWMAという三社関係ができあがった。

硲氏はKMT設立当時のメンバーだったが、事件後QWMAの理事となった。

彼が「去っていった者」というのは、事件に関係した人間で会社を去っていった者や、亡くなった人間のことを言っているのであろう。

「もしかしたらあんたもいろいろと大変な局面に出会うかもしれない。が、きちんとした態度で臨むことだ」

「・・・はい」

「それと、修平を頼むよ。やつは向っ気が強すぎていかん。しっかりコントロールしてくれ」

「まあまだ若いですからねえ」

「血気にはやりすぎるんでなあ。現地の人と上手くやれたらいいが」

「そこらへんは問題ないと思いますよ。別に嫌な性格ではないし。分別はしっかり持っていますよねえ」

「それなりいんだが・・・。わが子ながらあいつのことはよくわからんのだよ」

「お父さんのことは尊敬しているみたいですよ」

「まあよろしく頼むよ」

「わかりました」

硲氏は何度も修平のことを「よろしく」といっていた。別れ際にも何度も頼んでいた。二人で長いこと飲んでいたが、修平は家に帰ってこなかった。

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