3日後、私はジャカルタ空港に高田(元)課長を迎えにいった。かなり重要な話(おそらくA・A計画に関する何らかの情報)だろう。高田元課長が「できるだけ大勢の人のいる場所で待ち合わせを」と言っていたので空港のロビーで待つことにした。
携帯電話にメールが入った。
「落ち合う場所はどこだ?空港のホテルの電話番号とだいたいの場所を教えてくれ。1時間後にホテルのロビーで落ち合おう」
何故メールを送るのかわからない?が、ホテルの連絡先と場所を教えた。
「では1時間後に!」
再びメールが来て、私はホテルに向かった。
1時間後、ホテルのロビーに高橋元課長は現れた。息を切らせて全身汗びっしょりであった。なんだか汚らしい格好である。
「どうしたんですか高田課長?誰かに追われているとか?」
「その、通りだよ・・・。この年になって、探偵ごっこは・・・しんどいよ。それから・・・・高田課長、というのはやめてくれ。もう、KMTの、社員じゃないし、おれはKMTから、散々な目に・・・合わされているんだから」
「はあ、では高田さん。これからどうします?」
「すぐに、ホテルに、入ろう。予約は・・・」
「とってあります」
話し振りから私はホテルは予約しておいた方がいいのではないかと思ったので電話の後予約を入れた。
「よかった・・・・。ホテルに入れば何とかなる。すぐに部屋に入ろう。ふう・・・」
高田氏は肩で息をしながらよろよろと歩いていった。予約した部屋に入るとすぐにルームサービスを注文し、シャワーを浴びた。シャワーから上がると注文した料理を一心不乱に食べ始め、一時は私は何もできずボーっとしてしまっていた。まず始めに食べることは相変わらず変わっていない(本当にお腹が減っているのかもしれないが)。
「高田さん、あの、そろそろ本題に入っていただけませんか」
ルームに入って2時間近くたっても何も話さず、風呂に入り、食べてばかりいるのに、さすがにしんどくなった私は高田氏に話しかけた。
「ああ、すまん、いや、本当に何も食べていなかったのもだからな」
「重要な話なんでしょう?できればKMTを辞めてどうされていたかもお聞きしたのですが」
「会社を辞めてから、硲理事に聞いたかもしれないが、KMTのA・A計画の情報収集を始めた。お前にうそをついたのは申し訳なかったがしょうがなかったからな。前々から今度の会社の計画には裏があるんじゃないかという話はあったから、反主流派の間で根本的に内部調査をしていたんだ。が、情報漏えいが激しくなって主流派が猛反発してきた。どうも生存の思想のシンパがやたらと事件に首を突っ込んでいるらしくてな。おかげで情報の漏洩はおこるし、こっちもとばっちりを食って閑職扱いされるし、部長は「君には辞めてもらう」と言われるし、しょうがないから硲さんなんかとも話をして、地下にもぐって本格的に情報収集を始めたのさ」
「そしたらKMTの人間が尾行はじめてなあ。正直もうやめようと思ったが、いったん地下にもぐってしまうともう抜け出せん。情報収集がひと段落着いた頃には身の危険すら感じ始めたよ」
「危険なことは、やめた方がいいんじゃないんですか?そこまでしなくても・・・」
「だから、いったん地下にもぐってしまうと、抜け出すのは難しいんだよ。いろいろなところにも顔を出したしな。『新世紀』のやつとも随分親しくなった」
「・・・貨物船襲撃事件の首謀者かもしれないという、生存の思想の組織ですね?」
「ああ、日本の生存の思想の人間達でも、かなりアンダーな部分の人間だ。間違いなく彼らが襲撃事件を計画しているよ。奴らも前々からA・Aの事に関して知りたがっていて情報交換もした。他は・・・まあ言わない方がいいだろう」
「で、重要な話というのはなんですか?」
「実は、A・A計画の核心部分にあたる国家戦略秘密会議の議事録のコピーの一部を入手したんだ」
「国家戦略秘密会議?」
「QPRO発足後の政府諮問会議だ。極秘会でその存在自体知られていない。まあ50年位したら情報公開するのかもしれんが、法的規定もないからおそらく公開しないだろう」
「A・A計画の核心とはなんですか?どうやってその資料を?」
「資料の出所は言えない。地下にもぐったかわりに情報元の公開はしないというのが信条らしいからな。核心というのは日本のアジア戦略に関するものだ。日本は核武装しない代わりにQMによる軍事拠点作りを進めようと言うものだ。QPRO発足後5年後に検討が始められている。俺が入手したのはその計画が検討されていた頃の会議録の一部だ」
「もっと詳しく教えてくれないと・・・」
「その前に、お前に約束してほしいことがあるんだ。今話した内容は、俺は週刊誌に情報をリークすることにしたんで、2日後くらいには雑誌にでるはずだ。だから、現時点でお前に話しても一向に差し支えはない。しかし、その後はかなり危ない部分になるからお前に会社での反主流派の活動に参加するという確約がないと話せない。お前、会社の反主流派の活動に参加してくれないか?インドネシア支部で活動する人間がいないから非常にやりにくいんだ。俺はインドネシアにいるわけにもいかん。お前にそれを行ってほしいんだ」
「反主流派の活動・・・・ですか?・・・・・・どんなことを?」
「まだはっきりしたことはいえんが、活動することが非常に重要になる」
「・・・・・・俺は、今どうしていいかわからないんですよ。中途半端に情報を仕入れてしまって、会社でもあまりよく思われていないらしいことは事実なんですが・・・」
「参加するかどうかというのは、個人の選択だからな。個人としては負担がかかるかもしれないから今ここで即答してくれとは言わないが、又連絡するから返事をしてほしい」
「・・・わかりました・・・返事をします」
「ありがとう。お前はいい部下だったから、きっと俺の頼みも聞いてくれると思う。このコピーを渡そう」
高田氏は1枚のCDを渡した。
「これはなんですか?」
「議事録のコピーだ。プロテクトがかかっているから、今は見ることはできない。お前が返事をくれた時点で解除の暗証番号を教える。他にも色々な情報が入っているから、何かあったときに使え」
「これが俺の用事の全てさ」
そう言うと高田氏は目の前にあるフルーツを食べ始めた。
高田氏の話は私にとっては驚くに値しないことだった。インドネシアに来るまでにいろいろなことがあったし、会社が何をしようとしているかについては漠然ながら肌の感覚で理解できる。
しかし・・・。私は何か自分の価値観に基づいた行動をとる事はできなかった。
「どうしていいかわからない」
これが私の率直な意見だった。私の様子を見て、高田氏は私のその困惑を読取ったようで
「これからお前は色々なことに直面すると思う。必ずだ、その時どのような選択をしたかによって価値観は決まってくるだろう。俺の言ったことを、忘れないでくれ」
と、念を押した。私は軽くうなずく事しかできなかった。
高田氏とはその後すぐに別れた。自分は率直に言って身の危険を感じているが、継続的に連絡はするということだった。