鳳仙花シリーズ 〜Divided Truth〜 作:hiro『はなのなまえ』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「真実発生」 <私以外の全てはもう既に動いていた様で。 ここにいるのは私だけ、愚かで臆病な小娘だけでした> ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 赤い空。 対照的に白いダッフルコートを着た少女が一人、夕日に向かって自転車を漕ぐ。 紅空には雲一つ無く、正面には丸く大きな夕日が一つ。 彼女の周りには何も無く、彼女が走る絶える事無く続く道と 彼女が規則正しく吐く息の白さのみ。 <私は何処を走っているんでしょうか……> 理由を得ずとも足は動く。彼女はただ前へ。 と、視界が急に歪んでいく。 <?> 彼女の目からつたってくるソレが耳朶の方へ流れ、 少女は左手の指でソレに触れ、小さな唇に。 <しょっぱいです> ソレは涙である事が分かる。涙はいつまでも止まらず、 紅色に上気した頬を、彼女の視界を蝕んでいく。 <悲しくなんて無い筈なのに……いえ、本当に、 悲しくて泣いているのでしょうか? これはきっと――――> 彼女の口から何かが呟かれる。 意味を持つ言葉であるのか、この状況において彼女の心中に生まれた 不安が口からさっさと逃げ出したのか、どちらか分からない。 と、彼女の周りに疾駆する影が見える。 それはいつのまにか現れ、彼女の周りを囲む。 まるで渡り鳥が仲間と共に楽園を目指し飛翔するかのように。 <――――懐かしい。> 彼女の歪んだ視界には、それらはもはや殆ど見えなくなっている。 さらに涙は伝う。 <――――もっと、もっとここにいたいですの> 必死になってペダルを漕ぐ、あの影達と共に。それだけを願う。 願い叶わず、彼女だけが群れから遠ざかっていく。 <私も、私も一緒に――――> もはや不規則に吐く息は、彼女の顔に触れては遠ざかり、 誰もが、全てが彼女から遠ざかる。 否。 一つの影が疾駆する音が彼女の耳朶を打つ。 その音は鋭く、他のどの影よりも早い。 もう殆ど何も見えない彼女の右横に並び、あっさりと――――抜かない。 彼女のそばで速度を落とし、寄り添う騎士の如く、彼女と共に併走。 <……? 一体、どなた、なんでしょうか?> 彼女は自分が既に、その影を人としていることに疑問すら覚えない。 先行する影達も人であろうと思う。ただ、今、気になるのは横の影のみ。 彼女の思考に浮かんだ疑問に影は答えず、ふと、何かを彼女のハンドル を握る右手へと伸ばす。伸びてきたのは影の腕のようだ。 <一体、何を?> 焦りなど無い様に、影はただ彼女に腕を伸ばし続ける。 彼女は影の手を見る。そこに何かがあるのに気づく。 <受け取れ、と言っているんでしょうか……?> 左手のみでハンドルを漕ぐ。呼吸はもはや己の体の限界が近いことを 示すかのごとく、小さく、弱い。 それでも彼女は必死で右手を伸ばす。彼女が影からソレを受け取ろうと―――― 掴む。恐る恐る。ただ、ニ度と離れ得ぬように願って。 視界だけでなく、四肢の感覚も薄れてきた。彼女は漕ぐことすら忘れ、 横の影だけを見ようと首を右に。涙で何も見えない。 彼女は首を振る、いやだ、離れたくないと泣きじゃくる子供のように。 と、影から声がかかる。 「泣くな小娘。手間をかけさせるな。」 響く声は意外に若い。おそらく二十代後半の男性のように思える。 掴んだソレを見る。 <……うま○棒!?> ソレは、駄菓子屋等で売られているスナック菓子だった。 紫に光る、めんたいこ味の証拠だ。 <一体、どういうことな――――!?> 少女――――田中 葵の意識はそこで途絶えた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― HOMEに戻る